環境への取り組みと今後の課題

軟包装グラビア印刷は、省資源化を進める手法として有効と考えられる。他の包装容器よりもCO2の排出量が少ない軟包装用プラスチックへの理解をたかめ、イメージを向上させるためにも、今後カーボンフットプリント制度を確立することが重要となろう。

産業分類上グラビア印刷は、「紙」に印刷する「グラビア印刷」と「紙以外のものに対する特殊印刷物」の一部であるプラスチックフィルムに印刷するものに分かれ、当連合会加盟各社が主力とするのはプラスチックフィルムに印刷する「軟包装グラビア印刷」と呼ばれるものである。

軟包装グラビア印刷業界の規模としては、直近の調査(2019年㈱矢野経済研究所)では業界全体出荷額は年間9,300億円、その内組合加盟会社158社で、3,000億円を占めると推計されている。用途は食品包装(軟包装)が80%以上を占め、その他に建材、薬品、雑貨等となっている。顧客としては、大手印刷会社、食品メーカー、商社、包材メーカー等であり、グラビア印刷業といっても、製版、フィルム調達、印刷、ラミネート、スリッター、製袋までトータルで生産する「コンバーター」と印刷工程だけを請け負う「プリンター」に分類されている。

業界を取り巻く課題は、印刷産業の中でも群を抜いて多いと思われる。トルエン、酢酸エチル等といった希釈溶剤を大量に使用することから、改正大気汚染防止法によるVOC排出抑制、PRTRの化学物質把握管理促進法と化学物質審査規制法等の規制があり、臭気における近隣住民とのリスクコミュニケーション、食品安全に関わる衛生管理、危険物取扱の消防法など規制される法令、条例を遵守しなくてはならない。さらに、CO2排出削減にも、大量の熱風を必要とする乾燥熱源のボイラー、オールフレッシュの空調、VOC排出処理機等対応せねばならない。

また作業環境の管理区分強化によるノントレエン化も進んでいるが、顧客の高級志向が続く限りトルエンの存在を否定できない。環境にやさしいとされる一部アルコール含有の水性インキも出荷されているが課題は多い。それゆえ改正大気汚染防法が論議された当時、グラビア印刷業の存続が危ぶまれ、関係者による当局への多大な尽力と、12回に及ぶ環境対策協議会の開催により、「法規制と自主的取り組み」を業界が一丸となって実施し、2021年度には2000年度比82%の削減を達成した。そのことで、存続危機を存在感に変えた業界として関係各方面より賛辞をいただくこととなった。

さらにその実績と経験を生かし「地球温暖化防止実行委員会」や「コンバーティングの明日を考える会」を発足させ、関係省庁等の協力を得るなど、こうした着実な取り組みをしている。そうした取り組みは、一般社団法人日本印刷産業連合会が進めるグリーンプリンティング工場認定制度の普及に貢献し、SDGsへの取り組みとして高い評価を得ている。高い費用を掛けずに「安全・安心」を宣言し、廃棄物の管理、省エネ等を実行する制度であるが、当連合会会員企業158社の内、既に67事業所がその認定を受け、今年度中には、70事業所になる予定である。こうした活動の目標は、地球温暖化対策、循環型社会の形成である。

グラビア印刷の技術と製品の進化は、顧客の高級志向と「安全・安心」の要求が密接に絡んでいる。そして環境負荷の低減、省資源、多機能性、短納期等の現代の社会ニーズに対応し進化してきた。

グラビア印刷機は1台数億円し、付帯設備等と上記の法令等を遵守するには、さらに数億円が掛かる。最新の技術と機器を用い環境負荷の低減がされているが、それでも膨大なエネルギーを消費している。今後も継続的に発展するには、品質レベルの適正化と製版の浅版化と精度の安定、省エネ対応インキの開発、廃プラの排出削減、溶剤の回収化など幾多の課題の克服が必要条件と考える。